FXレバレッジの規制見送り|実施される背景と狙いを考えリスク管理

FXレバレッジの規制見送り|実施される背景と狙いを考えリスク管理

BUSINESS 2018.08.18

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FXレバレッジの今後を考える

「金融庁が外国為替証拠金取引(FX)の証拠金倍率(レバレッジ)を引き下げる検討に入った」と日本経済新聞(電子版)が報じたのは2017年9月27日。これを受け、業界内は騒然となりました。現行最大25倍を10倍程度に引き下げるというのです。少額の資金で大きな取引ができるというFXの特性が失われれば、取引をやめる投資家が続出するのは確実です。
危機を覚えた取引業者や投資家が猛烈な反対運動を起こした結果、今回は規制強化は見送られることになりましたが、再び金融庁が規制強化に乗り出すことはないのでしょうか。レバレッジ規制の今後を考えます。
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投資家の反対で10倍規制は見送り

「金融庁が方針を決めた以上、規制強化は免れない」と個人投資家やFX業者の間では当初、あきらめムードが広がっていたのですが、著名なトレーダーやアナリストらが規制に反対するサイトを立ち上げるなど、反対運動に立ち上がります。
金融庁が規制を検討したのは「為替相場の急変動で、個人投資家や業者が想定を超える損失を抱えるリスクを減らす」というのが理由でしたが、トレーダーやアナリストらは「現行の25倍でも海外より倍率が低く、これ以上の規制は個人投資家が海外に流出するだけ」「少額で投資できる魅力がなくなる」などと反論しました。
その結果、金融庁は方針を転換し、レバレッジの引き下げは見送ることを表明しました。
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レバレッジ規制の背景と狙いとは

そもそも今回、金融庁が規制強化に乗り出した理由はなんだったのでしょう。今後の動向を見極めるためにも、今回の金融庁の動きと背景を振り返ってみましょう。

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店頭FX取引業者にFMI原則に基づく安全性を求める

2017年12月に金融庁がFX規制に向けた有識者検討会を設置した際、設立趣旨を文書で公表しています。その文書が以下です。
ここにあるFMI原則とは、証券取引や商品取引の決済・清算機関など金融市場インフラ(FMI)に対し、強固なリスク管理や透明性の確保などを求めた国際基準です。
つまり、金融庁は日本発の世界恐慌を招かないため、海外よりも厳しい規制を店頭FX業者にかけようとしたのです。
【参考:https://www.fsa.go.jp/news/29/singi/20171218-1.html
ここにあるFMI原則とは、証券取引や商品取引の決済・清算機関など金融市場インフラ(FMI)に対し、強固なリスク管理や透明性の確保などを求めた国際基準です。
つまり、金融庁は日本発の世界恐慌を招かないため、海外よりも厳しい規制を店頭FX業者にかけようとしたのです。

店頭FX業者の破たんは世界恐慌に発展する恐れも

日本のFX市場は年々拡大し、2015年には年間取引5000兆円を超えました。今や日本の個人投資家の資金は「ミセス・ワタナベ」とも呼ばれ、ときには為替市場に一定の影響力を持つほどになりました。
確かにリーマンショックのような大幅な為替変動によって証拠金の不足が生じ、個人投資家が巨額の損失を抱える恐れはあります。そして、個人投資家が損失を補填できなかった場合、損失はFX業者に引き継がれ、最悪の場合、FX業者が経営破綻してしまうことさえあります。おそらく、金融庁はこうした事態を恐れたのでしょう。

倍率の引き下げで店頭FX業者の安全性を高めようと考えた金融庁

今回の規制強化ですが、なぜ10倍なのか、という点について、金融庁は過去の主要通貨の変動率を挙げています。1985年のプラザ合意以降、主要10通貨の過去最大の変動率を平均すると11.4%で、それをカバーできるレバレッジは8.7倍だというのです。(参照 2月13日開催 有識者検討会参考資料)
【参考:https://www.fsa.go.jp/news/29/singi/20180213-1/03.pdf
この資料の中で、金融庁は「店頭FX業者の決済リスク管理を不十分なままにしておけば、顧客やカバー取引先に大きな影響があるほか、外国為替市場や金融システムにも影響を及ぼす可能性がある」と指摘しています。その業者の安全性を高める方策がレバレッジ規制だったというわけです。
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レバレッジ規制が実施されると何が起こるのか

今回はひとまず見送られたレバレッジ規制ですが、実際に行われるとどのような影響があったのでしょうか。本当に、顧客や業者の保護につながったのか、検証します。

必要証拠金が増えて資金効率が下がる

レバレッジが10倍になれば、1万円で取引可能なのは10万円までとなります。現在は25倍ですから、1万円で取引できるのは25万円まで。逆に言うと、現在100万円分の相当の取引に必要な資金は4万円。それが10倍になると10万円が必要になり、必要な資金の量は2.5倍となります。
たとえば1ドル100円として、1万ドルを保有していた場合、現在は証拠金は4万円で済みますが、10倍に引き下げられると2.5倍の10万円を用意しなければならなくなります。もし、現在の取引額が200万、300万だったら、と考えれば、個人投資家が死活問題と考えた理由がおわかりいただけるでしょう。

当然、ロスカットにも影響が

証拠金を2.5倍に増やしても、まだ安心はできません。ロスカットに備えた余剰金の確保も必要です。
通常、FX取引をするときはロスカットに備えて、資金に余裕を持たせます。例えば、1ドル100円のとき、1万ドルを買うとします。レバレッジ25倍なら4万円で買えますが、証拠金に余裕がなければ、少しでもドルが値下がりすると、証拠金不足でロスカットされてしまいます。たとえば、証拠金を10万円入れておけば、6万円の余裕がありますから、1ドル94円に下落するまでロスカットは免れます。
このように、レバレッジが10倍に規制されると、ロスカットも考えながら証拠金を積み増すか、取引量を減らすかのどちらかを迫られるのです。

リスクを求める投資家の海外流出も

レバレッジ規制強化で、店頭FX業者がまず懸念したのが、顧客の海外流出でした。FXのレバレッジに関して最も厳しい規制を行っているのが韓国で、通貨を問わず一律10倍です。その他欧米諸国はおおむね日本より規制が緩く、米国は主要9通貨が50倍、その他の通貨は20倍です。
しかし、セーシェルや香港など規制のかからない国や地域に本社を置くFX業者の中には、1000倍、3000倍といった高いレバレッジをうたうところがあり、それ以外の業者も400倍程度です。こうした業者は、日本語のサイトを設けるなど、日本人でも簡単に口座を開設できるようにしています。
実際、個人投資家の間でも、「規制が実施されたら、海外に口座を開くしかない」という声が聞かれました。

規制によって国内FX業者の財務健全性が悪化する可能性も

規制強化によって、日本の個人投資家がFX取引をやめたり海外に口座を設けたりする、という事態になれば、日本国内のFX業者の経営に悪影響を及ぼします。実際に2017年9月の日本経済新聞の報道を機に、FX専門業者の株価が急落しました。
金融庁は、規制強化によって店頭FX業者の経営を安定させようとしたのですが、かえって顧客の不安をあおる結果となってしまいました。これでは逆効果です。当然、FX業者は規制への反対を主張しました。

10倍規制に投資家や業者が猛反論 有識者からも異論が

こうした批判は経済学者からも上がり、有識者検討会では神戸大学大学院の岩壷 健太郎教授が、「(規制が強化されると)個人投資家は海外FXや法人化、仮想通貨取引へと取引の場を移す可能性が高い。規制の手が届かない市場に国内投資家を向かわせることは投資家保護の観点からみても問題」と規制強化に疑問を呈し、「FX取引が健全な市場として発展していけるように、規制のあり方を検討することが望まれる」と再考するよう求めました。
スーツ 男性

規制に乗り出した森信親金融庁長官とは

今回の金融庁の規制強化は、改革路線を掲げる森信親長官の意向が強く働いていたともいわれています。
森長官が就任したのは、2015年。金融庁長官は2年で交代するのが通例で、3年は異例の長さです。森長官は「貯蓄から資産形成へ」を掲げ、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」や「つみたてNISA」などの普及に力を入れてきました。一方で、銀行や証券会社を「顧客主義ではない」と批判し、改革を迫りました。その強硬な改革姿勢に「最強の金融庁長官」などとも呼ばれました。
おそらく森長官は、FX市場も世界的な経済環境の変化に耐えられる強靭な体質に改革し、個人投資家が安心して参加できる環境にしたかったのでしょう。しかし、その改革はあまりに性急でした。
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後任には遠藤俊英長官が

剛腕で知られた森長官も7月に退任し、後任には遠藤俊英監督局長が就くことになりました。
森長官は最後に大きな失敗を2つ犯したといわれています。1つは仮想通貨交換業者、コインチェックの不正流出事件です。森長官は仮想通貨業者の登録制を導入し、市場の育成にも熱心でした。
もう一つは、女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営する東京の不動産会社が経営破綻した問題です。この問題では、融資元のスルガ銀行の行員が書類を偽造し、不正な融資を行ってきたことが明らかになりました。森長官はスルガ銀行を「新たな銀行のビジネスモデルの代表例」として称賛していました。
ひょっとすると、レバレッジ規制が腰砕けのような形で終結したのも、この辺りの事情が関係していたのかもしれません。
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どうなる今後のレバレッジ規制

今回、レバレッジ一律10倍の規制は見送られましたが、店頭FX業者への監督は強化されることになりました。業者の経営体力を厳しく評価し、健全性の低い事業者には自己資本の積み増しやレバレッジの引き下げを求めるそうです。
一応は見送られた10倍規制ですが、今後、この議論が復活することは十分に予想されます。今回の規制にも消費者問題に取り組む弁護士らは賛成していましたし、個人投資家の中にも「資金管理さえしっかりしていれば、レバレッジは関係ない」という人もいます。
今後もFXの投機性のリスクが問題になるような経済問題が起これば、10倍規制問題も再び再燃することになるでしょう。

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